放射線治療科
放射線治療科の紹介

がんを切らずに治す放射線治療
放射線治療は外科療法と同等に有効な根治的がん治療法で、早期のものから進行したものまで比較的幅広い治療適応を持っています。全身状態のよい方々だけでなく高齢者や合併症をお持ちの患者さんに対しても適用できる体にやさしい治療法です。また、がん性疼痛をはじめとした様々な苦痛を緩和する有効な手段として用いられています。放射線治療はがん病巣だけに当たるように照射される範囲を絞り込んで、病気でないところは障害を受けないように治療計画を立てますので、全身的な影響が少なく、身体の正常な機能を損なうことなく、がんを治療することができます。手術を行った場合の治療成績に匹敵する成果をあげています。
放射線治療の最大の利点は手術療法とは異なって、がんに侵された臓器の機能と形態の温存をしながら治療が可能だという点です。喉頭癌や舌癌をはじめとする頭頸部腫瘍の治療では機能と形態を温存しつつ、癌を根治させることが重要なポイントです。喉頭癌になったからといって喉頭を切除していたのでは声も出なくなってしまいますが、早期がんであれば放射線治療で90%以上が治癒します。また、舌癌になったからといって舌を切除してしまったのでは発声が不自由になり、食事も上手くとれなくなります。この点、普通に言葉を話せる状態を保ちながら、がんを消滅させてしまうことができるのが放射線治療の優れた点です。
放射線治療に適するがんの種類
・根治的照射を行うがん(術前・術後照射を含む)
原発性脳腫瘍、頭頚部腫瘍(喉頭がん、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん、上顎がん)、食道がん、乳がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がん、子宮頸がん、子宮体がん、前立腺がん、膀胱がん、直腸がん、大腸がん、皮膚がんなど多数あります。
・緩和的照射を行うがん
がんの骨転移や脳転移や局所再発などの苦痛症状を有するあらゆるがん。
当科の診療内容
実施している治療内容
外来にて診察し、病状と治療効果と副作用を勘案して放射線治療が有用と判断したら、治療をお勧めします。外来での通院治療が一般的です。入院はがんの種類により各診療科での入院になります。当科自体での入院は受け入れていません。
基本的な外部照射の方法は3次元固定多門原体照射(3DCRT)、体幹部定位照射(SBRT)、強度変調放射線治療(IMRT)の3通りを疾患に応じて使い分けています。画像誘導放射線治療(IGRT)を併用して正確な位置合わせを行っています。2025年7月から乳がん患者については体表面位置照合を利用します。また転移性脳腫瘍に対する脳定位照射も可能となります。
特に重点を置いている治療は以下の通りです。
- 限局性前立腺がんに対する強度変調放射線治療(IMRT)
- 原発性脳腫瘍に対する強度変調放射線治療(IMRT)
- 頭頸部腫瘍に対する強度変調放射線治療(IMRT)
- 肺腫瘍に対する体幹部定位照射(SBRT)
- 乳房温存療法における腹臥位全乳房照射(Prone Breast Irradiation)
- 乳房温存療法における寡分割照射(Hypofractionated RT)
- 乳房温存療法における深吸気息止め照射(Deep Inspiration Breath Hold: DIBH Irradiation)による心臓線量の低減
- 子宮頸がんに対する画像誘導小線源治療(CT/MRI-based IGBT)および組織内照射併用腔内照射(Hybrid-BT)
なお、がん診療や放射線治療に関するセカンドオピニオンを希望される方は病院窓口でご相談ください。
他施設に依頼する治療内容
当院で実施していない放射線治療は以下の通りです。
- 粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)
- 脳定位照射(ラジオサージリー)
- 舌癌に対する低線量率組織内照射
- 前立腺癌ヨウ素永久挿入療法
- 前立腺癌高線量率組織内照射
- ゼバリン療法
- 中性子ホウ素捕捉療法(BNCT)
患者様の希望があれば、当科より下記の施設に紹介を行います。
◎陽子線治療 : 津山中央病院がん陽子線治療センター(岡山県津山市)
◎脳定位照射 : 大田記念病院ガンマハウス(福山市)
◎高精度放射線治療 : 広島がん高精度放射線治療センター(広島市)
◎低線量率組織内照射 : 岡山大学病院放射線科
◎重粒子線治療 : 兵庫県立粒子線医療センター、九州国際粒子線医療センター(サガハイマット)
◎中性子ホウ素捕捉療法(BNCT) : 関西BNCT治療センター(大阪府高槻市)
放射線治療のすすめ方
- 診察
担当医師が診察し、あなたの病気の種類や状態、今までに受けた治療、検査の結果を十分に踏まえた上で、放射線治療によって期待できる効果と副作用を説明します。なお受診するには各診療科あるいは周辺医療機関からの紹介が必要です。 - 治療計画
CTを用いて、放射線をどの部位に、どの方向から、どのくらいの量を何回に分けて照射するのかを決めます。頭部・頚部などはマスクやシェルなどと呼ばれる固定具を用いて治療を行うため、固定具の作成をします。位置が決まったら皮膚や固定具の表面に照射範囲の印をマジックなどでマーキングします。作業には30分~1時間くらいかかります。 - 毎回の治療
治療は月曜~金曜の週5回、毎日行います。(土曜・日曜・祝日は原則休みですが、GWや年末に休日照射を行うことがあります。)受付機に診察券を入れて受付票を受け取り、回数カードと一緒に持ってきてください。 順番がきたらお呼びしますので治療の部屋に入ります。治療計画のときと同じように、皮膚に書いた印が見えるように治療台に横になります。印を合わせて照射位置を整えますので動かないようにしてください。ただし、乳がん患者さんの体表面照合放射線治療(SGRT)では印がなくても位置合わせが可能です。 照射は数秒~数分で終わります。照射中は一人になりますが操作室からテレビモニターで見守っており、マイクで会話もできますので安心して治療をうけてください。 外来の方は治療が終わったら受付票と回数カードを受け取り、受付票を外来の料金計算窓口3番に提出してください。 - 経過観察
外来治療中は毎週水曜日に採血をして白血球の減少や貧血などがないか確認します。採血結果は木曜日の診察時にお知らせします。診察では治療効果や副作用についてのチェックをします。体調に変化があったらお知らせください。また、診察日以外でも体調に変化があったときや気になることがあれば診察しますので申し出てください。
予定された放射線治療が終了された方は、紹介元の診療科あるいは病院でその後の治療と経過観察をうけていただきます。
当院の放射線治療設備
(1)外部放射線治療装置『トュルービームTruebeam』(バリアン・メディカル・システムズ社、1台)

- 照射位置への正確な画像誘導機能と広い照射範囲が設定可能な高精度照射機能を兼ね備えた放射線治療装置です。
- 2025年7月から稼働しています。
- 高精度な照射方法である強度変調放射線治療(IMRT)に対応、VMAT(RapidArc)に対応しています。
- 出力できるX線エネルギーは4MV、6MV、10MVの3種類で身体中のがんの存在する位置や周囲の状況に応じて選択することができます。
- 1分間に最高2400MUの高線量率で患者さんの負担を少なくする短時間での照射が可能です。
- 5mm幅のマルチリーフで病変の形状に合致した細かい照射範囲の設定が可能です。
- 照射野は最大40×40cmまでの広い範囲での照射が可能です。
- 呼吸性移動対策システムであるReal-time Position Management(RPM)装備しています。
- 画像誘導放射線治療システム(IGRT)であるオンボードイメージャー(OBI)装備、CBCT装備しています。
- さらに画像誘導放射線治療システム(IGRT)としてExacTracシステム(図2)を装備しており、わずか0.3mmの誤差で極めて正確な照射位置精度を確保できます!
(2)画像誘導システム『エグザックトラック・ダイナミック ExacTrac Dynamic』

- 画像誘導放射線治療システム(IGRT)としてExacTracシステムを装備しており、わずか0.3mmの誤差で極めて正確な照射位置精度を確保できます!
(3)密封小線源治療装置『マイクロセレクトロンmicroSelectron-HDR v3 』(Neucletron社、1台)


HDR-V3 密封小線源治療計画装置Oncentra
- 広島県東部で唯一の高線量率密封小線源治療装置です。H25年12月から稼働しています。
- 遠隔操作によって密封された放射性同位元素(Radioisotope)を体内に送り込んで内部から照射する治療機です。
- マイクロセレクトロンは世界的に最も普及している信頼性の高い装置です。主に子宮頸がんの腔内照射に使用しています。
- 密封小線源治療計画装置はオンセントラ(Oncentra v4.3)(図4)を使用しています。
- 当院は昭和62年からラルス装置を用いた高線量率腔内照射を行っています。平成26年からは子宮頸がん・子宮体がん・腟がんなどに対して画期的な治療手法である画像誘導腔内照射(Image-Guided Brachytherapy: IGBT)での治療を導入しています。
- 広島県内では治療患者数が最も多く、豊富な治療経験を有しております。これまでの治療成績について優れた学術発表を行っています。
- 内照射だけでは治癒困難と思われる患者さまには組織内照射や重粒子線治療のできる特殊な施設への紹介連携を行っています。そのような医療機関との密な連携体制があるのは広島県東部では当院のみです。トータルな治療体制の整った当院での治療をお勧めします。
高精度放射線治療
◎脳定位照射(SRT)
多発性脳転移に対する脳定位照射は10個以下の少数個の脳転移に対して放射線治療に伴う認知機能低下を回避した治療を行うことができます。2025年7月から脳定位照射システム(エレメンツElements)を導入しました。
脳定位照射システム(エレメンツElements)
◎体幹部定位放射線治療(Stereotactic Body Radiation Therapy: SBRT)
体幹部の治療容積の少なくて済む小さな病変に対して大量の放射線を照射することで、通常の方法で制御の難しい病変についても高率な局所制御率が達成されています。◎強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT / Volumetric Modulated Arc Therapy: VMA
これまでの方法では避けることのできなかった正常組織への障害を極力低減できるとともに、大線量を照射することで障害なき治癒を目指すことができます。唾液分泌低下が患者のQOLを低下させていた頭頸部腫瘍患者への恩恵が大きい方法で、必須の照射技術です。
当院は強度変調放射線治療実施施設です!
医療機関が強度変調放射線治療を行うには、放射線治療常勤医師が2名在籍していることを必須条件として、県への届け出が必要です。届け出をしていない医療機関での実施は許されていません。
◎画像誘導放射線治療(Image-guided Radiation Therapy: IGRT)
従来用いられていた皮膚マーキングに代わって骨構造や軟部組織構造での患者セットアップが可能になります。これにより照射位置の精度は著しく向上します。当院では2次元のX線画像を用いるExacTracのスループットの高い手法に加えて、コーンビームCT(CBCT)での軟部組織を基準とした位置照合が可能です。
◎体表面照合誘導放射線治療(Surface-guided Radiation Therapy: SGRT)
体表面の形状と体温分布からのスピーディな照射位置合わせと照射中の位置ずれのモニタリングをします。エックス線を使用しません。乳がん治療における深吸気息止め照射(DIBH)に有用です。
体表面照合画像誘導放射線治療
画像誘導密封小線源治療
◎子宮頸癌に対する画像誘導小線源治療
子宮頸癌の局所制御を目指す場合、線量集中性に優れた小線源治療は重要な役割を担っています。従来、アプリケーターに基づくA点線量処方が行われてきましたが、仮想の処方点であって個々の腫瘍そのものを評価していませんでした。最近、CTあるいはMRI画像を用いて腫瘍の大きさや進展範囲、リスク臓器の位置や線量を評価して投与線量を決定できる画像誘導小線源治療(図7)が普及するようになりました。
画像誘導小線源治療
◎子宮体癌に対する画像誘導小線源治療
子宮体癌の治療の第一選択は手術療法ですが、肥満や合併症を伴っている患者さんも少なくなく、手術が困難な場合があります。そのようなときにも放射線治療は根治的な治療とすることができます。当院では子宮体癌にも局所制御率が高く、晩期合併症が少なくなると思われる画像誘導小線源治療を実施しています。ラジオアイソトープ治療(RI内用療法)
◎甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に対する放射性ヨード内用療法
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に対して放射性ヨード療法が有効です。放射性ヨード療法により通常1回の治療で正常あるいは機能低下になります。機能低下になった場合には甲状腺ホルモン補充療法を受ける必要がありますが、そちらの方が甲状腺機能をコントロールするのが容易です。日本では甲状腺機能亢進症に対する治療法として抗甲状腺剤(製品名:メルカゾール)の投与が一般的ですが、これによるコントロールは不安定で無顆粒球症などの副作用が生じる危険性がありますので、アメリカでは放射性ヨード療法が第一選択の治療法と考えられています。◎甲状腺癌術後アブレーションのための放射性ヨード内用療法
甲状腺がんを外科的切除された後に遺残した甲状腺組織をアブレーション(摘除)することにより甲状腺がんの再発を予防し、その後の再発の診断を容易にするための治療です。 なお、甲状腺がん遠隔転移に対する放射性ヨード内用療法については施行していませんので、必要があれば岡山大学病院放射線科あるいは国立病院機構岡山医療センターに紹介致します。
◎多発性骨転移に伴う去勢抵抗性前立腺がんに対するラジウム治療
多発性骨転移に伴う去勢抵抗性前立腺がんに対して塩化ラジウム治療(製品名:ゾーフィゴ注)を行うことができます。塩化ラジウム(Ra-226)は4週間ごとに計6回静脈内投与するだけで骨シンチグラフィにて集積のある骨転移部位に長くとどまり、そこから放出されるアルファ線によって痛みを緩和すると考えられています。医療用麻薬でもコントロールできない疼痛に対して緩徐に作用していきます。さらに放射線外部照射、抗がん剤、ホルモン療法、ビスホスホネート製剤などと併用しても効果的です。
スタッフ
役 職 放射線治療科医長
専門分野 放射線治療
卒業年度 昭和62年
資 格
◆ 放射線科専門医(専門医機構認定)
◆ 放射線治療専門医
◆ がん治療認定医
◆ 核医学専門医
◆ 核医学会PET認定医
◆ 乳癌学会乳腺認定医
◆ 検診マンモグラフィー読影認定医(A-S認定)
◆ 認定産業医
◆ 緩和ケア指導者研修修了医
◆ 第一種放射線取扱主任者
◆ 日本医学放射線学会研修指導医
兼安 祐子(かねやす ゆうこ)
役 職 放射線治療科医長
専門分野 放射線治療
卒業年度 昭和60年
資 格
◆ 放射線科専門医(専門医機構認定)
◆ 放射線治療専門医
◆ 乳癌学会認定医
◆ 認定産業医
◆ 日本医学放射線学会研修指導医
◆ Best Doctors(2016-2017)