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センターの特徴

広島県東部地区エイズ治療センター(AIDS Care Center of East Side Hiroshima ; ACCES・アクセス)
 福山医療センターは政策医療であるHIV感染者の治療において、広島県東部地区を一手に担っておりますエイズ治療中核拠点病院です(1994年7月に広島県より指定され、2018年9月にはエイズ治療中核拠点病院に指定)。
 エイズ治療中核拠点病院においては様々なHIV感染症/エイズ症例に対応可能な、総合的で高度な医療を提供することが求められます。HIV感染症は疾患による身体や身体機能への影響に留まらず、心理状態や社会生活にも、その影響は及ぶことから、患者さんのニーズに応じた適切な支援を行う必要があります。そのためには医師・看護師・薬剤師・社会福祉士・臨床心理士などの各スタッフが専門に応じて役割を分担し、連携を取りながらチームでケアを提供することが重要となります。
 治療方法がほぼ確立されている慢性感染症であるHIV診療において、チーム医療の目的は患者自身が服薬も含め自己管理を行い、自身の健康を向上・維持できるようになることです。また次々に新規の抗HIV薬が開発・登場することからその治療ガイドラインは毎年改定され、より良い治療法の提供が求められるため、それらの情報の収集が欠かせません。そのために本院では国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター、大阪医療センター、中国・四国ブロック治療拠点病院である広島大学病院、岡山県の中核治療拠点病院である川崎医科大学病院などからHIV/エイズに造詣の深い外来講師を招聘して講演会を開催しています。さらにHIV診療チームの各スタッフはHIV/エイズ関連の学会(日本エイズ学会、日本感染症学会など)・研究会・研修会に積極的に参加し、HIV/エイズに関する最新の情報を得るよう心がけています。

 広島県東部地区では患者数の増加は大都市部と比べると緩やかではありますが、新規診断患者はコンスタントに年間数名あり、その多くがエイズ指標疾患であるニューモシスチス肺炎や他の日和見感染症、日和見悪性腫瘍を発病してしまってからHIVが診断されている『いきなりエイズ症例』です。本邦では先進国の中でもエイズ発病者の比率が高いことが問題であり、特に患者数の少ない地域でのエイズ発病率の高さが未だ大きな課題となっております。HIV感染者を早期に診断し、『エイズ発病前に治療につなげる』ことが最も重要であり、それを達成するためには周辺の医療機関、行政機関との連携による啓発活動が欠かせません。当エイズ治療センターでは、医療機関や教育機関への出前研修会の提供やエイズに関する情報発信を積極的に行い、広島県東部地域のエイズ啓発活動の質を高めていきたいと思います。さらには、福山市保健所、広島県東部保健所や福祉担当者と定期的に会議を開催し、福山市近辺の医療圏におけるHIVスクリーニング検査の普及活動やHIV感染者の社会福祉問題について協議を行い、感染を心配している人が気軽に抗体検査を受けることができる社会環境の構築ならびに整備にも貢献していきたいと考えています。

医療関係者向け専門情報

具体的な診療内容

 本院でのHIV患者さんの外来患者数は広島県内でも2番目に多く約60名、中国四国地方のブロック拠点病院である広島大学病院(約200名)の次に多い通院患者数です。本院では、2003年以降受診患者数が漸増し、2008年からは毎年2~8人の受診が続き、2020年6月現在までに受診したHIV/AIDS累積診療件数は78件となり、中国地区におけるエイズ治療拠点病院ではトップ5に入る診療施設となっています。
 HIV感染症は、最近の抗HIV療法の凄まじい進歩により、感染者は非感染者とほぼ同等の生命予後が得られるようになりました。現在は利便性を追求した1日1回1錠の内服治療(Single Tablet Regimen:STR)で長期にわたる健常な日常生活が保証される時代となり、30年前には「不治の病」と恐れられたこの感染症は「コントロール可能で予後良好な慢性感染症」へとその認識が大きく変貌しました。 しかも、早期治療開始で、感染した人から感染してない人に感染させる二次感染を96%阻止でき、治療することで予防までも可能となっています(予防としての治療:Treatment as Prevention:TAP)。また近年ではハイリスクグループの非感染者が性交渉を行う際に、その前後で抗HIV薬(FTC/TDF;ツルバダ®)の予防内服を行うことで感染を高率に阻止できることが多くの研究で証明され、積極的に感染拡大を防ぐ時代となりました(暴露前予防内服:Pre-exposure prophylaxis;PrEP)。最近の話題はU=U(Undetectable=Untransmittable)というメッセージです。これは効果的な抗HIV治療を受けて血液中のHIVウイルス量が検出限界値未満(Undetectable)のレベルに継続的に抑えられているHIV陽性者からは、性行為によって他の人にHIVが感染することはない(Untrasmittable)、ということを表しています。本院での治療は、免疫の指令塔の役割を果たしているCD4リンパ球数が500/μl未満またはエイズを発病している人を中心に実施し、これまでに治療を行った患者数は78例で、すべての治療例で治療開始後にはHIVウイルス量の抑制とともにCD4の数が増加し、免疫能の回復がみられ、ほとんどの患者さんは診断以前と同じレベルの生活を送ることができています。
 しかし、現在のところ根治療法はなく、感染者/患者は生涯にわたる医療受療を余儀なくされています。また、その医療的側面のみならず、経済的側面、患者自身および患者を取り巻く心理社会的側面、特にセクシュアリティの問題など数多くの課題を抱えており、HIV感染症はチーム医療が求められる疾患の原点とも言えます。
 そこで、本院では2009年に医師、看護師、薬剤師、臨床心理士(カウンセラー)、ソーシャルワーカー(MSW)、臨床検査技師や事務職員でHIV医療チームを立ち上げ、これらスタッフ間で連絡を取り合うとともに、現在は毎月2回チームカンファレンスを開催しています。自分の関わりのなかから意見を出し合い、情報を交換しながら患者さんのかかえる課題や問題点を明らかにして、感染者/患者さんが長期にわたり安心して医療享受できるよう活動しています。また近年はHIV感染者の口腔ケアが重要視されており、チームのメンバーに新たに歯科衛生士が加わり、患者さんの口腔内の状態の評価と口腔ケアを実施しています。そして必要に応じて「広島県の歯科診療ネットワーク」を通して、HIV感染者の歯科治療を行っている近隣の歯科クリニックを紹介しています。
 2017年本院では福山尾三地区のエイズ医療を支える専門医療機関として更なる診療体制の充実を目指すために、『広島県東部地区エイズ治療センター(AIDS Care Center of East Side Hiroshima;ACCES・アクセス)』を立ち上げました。エイズ発病者の診療では、エイズ関連悪性リンパ腫や播種性結核、中枢神経病変など治療に難渋する疾患が問題となります。これらの疾患においても当センターにてできる限りの治療を提供し、必要に応じて広島大学病院、川崎医科大学病院などのエイズ診療経験豊富な拠点病院との連携も行い対応していきます。さらに緩和ケア、人工透析といった長期療養を要する患者さんの診療においては、クリニックも含めた周辺の医療機関との連携を密に行い、当センターを中心としてより充実した患者支援を提供していきます。2018年9月にはその診療実績が認められ、広島県より広島県内で3番目(県立広島病院、広島市民病院に次ぐ)のエイズ治療中核拠点病院に指定されました。また近年では外国人労働者や観光客の増加に伴い、外国人患者さんへの支援を行う機会が増えています。福山市でもベトナムなど東南アジア出身の労働者が増加し、当院でも外国人患者さんへの支援に対応するために国際支援部が立ち上がりました。現在、当センターに通院する外国人患者さんは数名程度ですが、今後新たに患者さんが受診された際には国際支援部の協力のもと、必要に応じて母国語の通訳を用いた診療を提供していきます。
 当センターでは「HIV感染者/AIDS患者が必要とする医療を、全国どこの医療機関でも享受できる」ことを目指して、周辺地域の医療機関や教育機関へのHIV診療に関する出張出前研修会を開催しております。これまでの福山市周辺の施設における研修会開催実績は20件となり、各施設より高評価をいただいております。各医療機関のニーズに応じた内容で派遣講師スタッフを調整し研修会を提供できますので、ご希望の医療機関様が御座いましたら本院の担当者(医療連携支援センター・MSW木梨)までご連絡下さい。

HIV診療科 診療実績

HIV診療科 発表業績

HIV感染症のしおり

 ◆目的

HIV感染症は、感染経路の多くが性交渉によるものであるという疾患の特異性から、現在でも「男性同性愛者の病」や「死に至る不治の病」などといった間違った情報による感染者への差別・偏見などが存在しています。
今回、HIV感染症に関する正しい知識・情報を症例検討などを通して、定期的に情報発信をすることを目的に、【HIV感染症のしおり】を作成しました。
薬剤師の皆さんや患者さんに向けた資料となっていますので、日常業務やHIVの啓発活動などにお役立てください。

1. HIV/AIDSとは?
2. HIVの間違った知識
3. 抗HIV薬の作用機序      
4. HIV治療で用いる検査値と早期治療の重要性

スタッフ

齊藤 誠司(さいとう せいじ)

役 職  感染症内科医長、広島県東部地区エイズ治療センター・センター長、感染制御部部長
専門分野  HIV感染症、感染症一般、輸血・細胞治療学、血液学(特に血液凝固異常症)
卒業年度 平成13年
資 格
◆ 日本エイズ学会:認定医・指導医、評議員
◆ 日本感染症学会:専門医・指導医、評議員、ICD(インフェクションコントロールドクター)
◆ 日本内科学会:総合内科専門医、臨床研修指導医
◆ 日本輸血・細胞治療学会:認定医、地区代議員
◆ 日本血栓止血学会:認定医
◆ 自立支援医療指定医師
◆ 身体障害者指定医師(免疫機能障害)
◆ 広島県難病指定医師
◆ 広島県小児慢性特定疾病指定医師
 

福井 洋介(ふくい ようすけ)

役 職 内科医師
専門分野 内科疾患の診断と治療、感染症一般
卒業年度 平成25年
資 格
◆ 日本医師会認定産業医


 
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